そうか、これは復讐、復讐だったんだ
日本のロックバンド「黒夢」の曲「BEMS」の歌詞のフレーズが思い浮かんだ。
♪ふいに気が付いた♪
復讐の有名な物語としては中国故事成語の「臥薪嘗胆」だろう。
中国春秋時代、呉の国の王である夫差(ふさ)が、父の仇である越の国の王勾践(こうせん)を討つために布団の代わりに身体が痛む固い薪の上に寝て復讐心をかきたて、長い苦労の末にこれを会稽山の戦いで破った。
一方、会稽山の戦いで夫差に敗れた勾践は、王にも関わらず夫差の奴隷として数年のあいだ人質となる。
その「会稽の恥」の屈辱を忘れぬため、数年の奴隷生活で許されて越の王に戻った勾践は苦い胆を寝所に掛けておき、寝起きのたびにこれを舐めてその恥を忘れまいとし、後に呉の国の夫差を滅ぼしたという故事
この中国故事のきっかけとなったのは「伍子胥(ごししょ))」と言う呉の国の王である夫差の先代闔閭(こうりょ)と言う王の側近になった人物だ。
伍子胥と言う人物の父はかなり力があって、楚という国の跡継ぎに仕えていたが、その跡継ぎと先代の王の仲が険悪になり、跡継ぎが廃嫡される事になると、その父と兄は権力があったが故に後の禍根を恐れられ、罪なく処刑されてしまう。
その父と兄の復讐を誓った伍子胥は、楚の国から呉の国に逃亡し、呉の闔閭に仕え、信頼を得ると次の跡継ぎを夫差にするように薦め、夫差に仕えた。
呉に仕えた伍子胥は徐々に呉に国力をつけさせ、楚の国を攻め滅ぼしてしまう。
その滅ぼした時には、父と兄を処刑した楚の国王である平王は他界してしまっていたので、伍子胥はその墓を掘り起こし、白骨化した平王の遺体に鞭を300回打ったと言われている。
これが「死者に鞭を打つ」の語源となった中国故事だ。
そんな話を思い出す事になった。
何のことか?
チートデイだ。
この日、熱海の伊東園ホテルに1泊温泉麻雀旅行に行ってきた。
伊東園ホテルの夕食はなかなかリーズナブルで食べ放題のバイキングとビールを含むお酒を飲み放題をやっている。
折角滅多に行けない旅行に来てまで我慢をしていては、生きている事の意味を見失いそうだと判断した俺は、もう暴飲暴食の限りを尽くしてやることにした。
最初はご褒美だ、チートデイだと自分に言い聞かせていた俺だけれども、なんとなくだけれども沸き上がる違和感は拭えなかった。
違う、この感情はそうじゃない
ご褒美としての喜びの感情というよりは、一番しっくりくる感情が「復讐」だなと思ったのだ。
そしてその一番しっくりくる感情が復讐だと気づいたとき、すべてがクリアに見えた。
そう、これは復讐だったんだ。
忍耐してきた日々に対する。
街角で匂ってくる糖質の誘惑を振り切って我慢したあの日
酒を飲んで満腹中枢が機能しなくなり、コンビニで目の毒になる、牛丼だの、カレーだの、パスタだの、ラーメンだの、焼きそばだの、蕎麦だの、ドリアだの、おにぎりだのを尻目に、美味そうだなチキショーとか小梅太夫になりながら、糖質が数グラムのサバで我慢したり、手に入るのに手にしてはならないジレンマを乗り越えたあの忍耐。
物凄く食欲がそそられたけれども、「俺は俺の言葉を全うする」とやせ我慢したあの日の我慢
その忍耐して来た日々に対する復讐なんだ、これはと思ったのだ。
もう我慢のかけらもない暴飲暴食のワガママ自暴自棄
そうすることで、耐えてきた苦しみに対する復讐をしているんだと気づいてしまったのだ。
ここしかないと、まあ明日からまた忍耐の日々が戻ってくるのは分かっている。
まるで、家臣が君主に謀反を起こすかのような、この時、この瞬間しか与えられない絶好の復讐の機会。
まさに、「ときは今 あめが下知る 五月(さつき)かな」から続く「敵は本能寺にあり」だ。
俺は復讐に走った。
目につくもの、一瞬でも我慢したなと記憶に残るものすべての料理を皿にのっけてやった。
多分、普段美味しいと思ってわざわざ食べに行っている物からすれば、味の期待値は大分下がっている。
でも、そんなの関係ないんだ。
これは復讐なのだから。
味なんかどうでもいい。
忍耐の日々で食べたいと一瞬でも思った物を胃袋に収める事が目的なんだ。
過去の自分を慰撫するかのように貪ぼり続ける。
取り戻すんだ、あの過去の忍耐の日を
と若い時に苦労の連続で、今から青春を取り戻そうとする老人のようになっていた
そう気づいた俺は、もう我を忘れ、麻雀で言う出るポン見るチーのように目についた料理に次々と手を伸ばす。
まるで、戦時中に食糧難で食に対する欲が肥大化し、常に食べ続ける肥満の人みたいになっていた。
キリスト教の七つの大罪の一つ
まさに暴食 – glutonny(グラトニー)だった。
結果的に、朝は明太パスタ、間食にレタスドッグ、居酒屋グリーン車ではビールとポテチとたけのこの里
そしてホテルのバイキングでは、ブリフェアの寿司を一皿埋め尽くし、冷えたカルボナーラ、ネギとろ、餃子にステーキ、チキンライスドリアに、天麩羅そばにカレーライス
と炭水化物天国を作り出してやり、スイーツのチョコレートソースをかけたソフトクリームまで食べてやった
翌朝も俺の復讐は止まらず、朝食バイキングでサバ込みの一皿ペロリと平らげ、お茶漬け2種類と天麩羅うどんも食してやった。
そして皆で大船に途中下車し、もつしげに行った後にアゴダシラーメンタカハシで、アゴ塩ラーメンとそのスープで食べるお茶漬けを皆で注文
ペンペン草一本生やすのも許さねぇ
そんな暴虐の限りを尽くし、聖書にでてくる神に滅ぼされた悪徳の街ソドムとゴモラのように灰燼と化してきたイメージだ。
虚しい
復讐は何も生み出さない
そんな、意味不明な芝居がかった台詞が脳内に浮かぶ
こうして、俺の復讐劇は終わった
そして、望んでいない復讐の連鎖が始まる
今朝、きっちり因果応報だと言わんばかりに体重計に復讐の応酬をされてしまった
やはり、復讐は何も生み出さない虚しい行為ようだ。
そんなわけでまた、忍耐の日々が始まる
明日は体重計が許してくれていると良いのだけれども。
コメント