BARで酒を飲んでいると、知らない男に声をかけられた。
この日の俺は始めましての店にふらりと入り、カウンターでメーカーズのハイボールに口をつけていた。
メーカーズと言えば、ウイスキー瓶の蓋の上から赤い蝋を血が流れたようにかけて固める蝋封が有名なあのウィスキーだ。
見た目がそそる。
そして、声をかけられた俺は男の方をマジマジと見た。
BARに来るにはちょっと敷居が高いのではないかと思えるヨレヨレなシャツを着て髭だらけの顔をし、鼻の頭まで真っ赤になっている男はまるで妖怪「知っとるケ?」のようだった。
他のネタでも記載したばかりなのだが、「妖怪知っとるケ」とはテレビ番組『オレたちひょうきん族』のタケちゃんマンのコーナーで明石家さんまが演じたキャラクターで妖怪人間の事を指す。
そしてタケちゃんマン7との対決では、「こんなの知っとるケ?」と言ってタケちゃんマン7に唐突に話題をふり様々なポーズを取らせてからかう妖怪だ。
「これ10秒間に何回できる?」とビートたけしに話題を振り、手を握ってグーにさせたり、パーにさせたりを繰り返して、『日曜洋画劇場』の淀川長治の真似を強制的にさせて、「サヨナラ、サヨナラ。サヨナラ」とナレーションをつけていた。
今見ても結構面白い。
そんな「妖怪知っとるケ」を思い出さずにはいられないほどの「妖怪知っとるケ」ぽい胡散臭い男だった。
俺がどう答えようか戸惑っていると、男は言葉をつづけた。
「実はな、琵琶湖の底には決して開くことのない扉がついているんだよ」
「そしてその先には超古代文明の遺跡と秘宝が眠っているんだ」
俺が怪訝な顔をし、何言ってるんだという顔をしたのを確認すると、俺の返事を待たずに男は席を立った。
会計済みだったのだろう。
バーテンダーも何も言わずに男が扉の外に出ていくことを見送っていた。
今のはなんだったんだろう。
だが、ふと思い出した。
今の話って、子供の頃に俺が夢中になった漫画、手塚治虫氏著作「三つ目がとおる」の内容まんまじゃないかと。
からかわれたかなと思いつつも、急に最近俺に起きた出来事と結びついた。
この「三つ目がとおる」の話の中では古代人である三つ目族の長老が三つ目族の滅亡前に、自分の墓に次の人類への警告を入れておくという物だ。
それが秘宝として琵琶湖の底に在る三つ目族の遺跡の中に眠っているという話
そして、その遺言を主人公が手にすると、琵琶湖の底の扉が開き、遺跡は水で満たされて、もう2度と立ち入れなくなるという内容だった。
そして琵琶湖の湖底から地上に戻り、主人公が読み上げた遺言にはこう書かれていた。
文明の発達により、公害が起き、海や山の汚染が甚だしく、近いうちに自分たちの滅亡は避けられない
自分達に代わる新しい人類が文明を起こすだろうが、おそらく同じ過ちを繰り返すだろう。
だからこそ、同じ過ちを繰り返さぬために警告をする
「わが子のその子のさらにその子に続く遠き血を分けた子達よ、我が告げたる言葉を読み、そしてそのように行え
邪悪なる文明を敵とみなし、すべて打ち砕くべし、焼き払うべし、邪悪なる者を葬り去るべし」
と昭和50年代の漫画なのだが、当時問題視された公害を意識した内容だったのだろう。
そんな「繰り返される過ち」をしてしまった俺と話が結びついたのだ。
その日の俺もダイエット中だった。
糖質カットをして何を食べるか
糖質がカットしようとすると極端に選択肢が削られる。
そのため、自宅近くに行ける店があまりないのだ。
妥協は許されない。
だとするとどこに行くべきか?
お気に入りだったステーキ屋はとっくに閉店してしまっている。
かといって遠方まで割の合わないステーキを食べるのも違う。
迷いに迷った末、仕方がなく自宅近くのデニーズに行くことにした。
選択肢としてのファミレスはいつもはないのだけれども、糖質カットと場所を考えるともうそこしかないような気がした。
そして俺はネットでメニューを調べながらデニーズに向かった。
低糖質な物をチョイスしようとすると、やはりアンガス牛のステーキ
生ハムサラダ
ほうれん草とベーコンのソテー
ポークの盛り合わせ
全部頼んでも1100キロカロリーくらいで糖質は20g未満
1日1食だし、全部いったれと注文した。
そして出てくる料理の数々
しかし、メインディッシュのはずのステーキの肉が堅くてぼそぼそしておりあまりおいしいと思えない。
ファミレスのステーキだから仕方がないと思うものの、この寂寥感というか虚しさはなんなんだろうと思っていた。
そして会計を見た時に、俺の虚しさはクライマックスを迎えた。
1食でお味に寂しさを感じながらも約4000円
デニーズ高くない?
にもかかわらず、俺の満足度は控えめ
うん、俺には駄目だと分かっていたのにまた同じ過ちを繰り返してしまった。
勉強法の予習復習と同じように、俺もたまに復習をしなければならないと受け止めているんだが、繰り返すたびに後悔の分量が増加していく。
やはり、俺はファミレスでは駄目なんだよ。
人類は同じ過ちを繰り返すようにできているんだ。
「三つ目がとおる」の長老の警告もおそらくは意味をなさない。
こんな短期間で俺というこの人間ですら簡単に過ちを繰り返すのだから。
そんなことをデニーズで朝のテレビ番組の占いの「がっかリス」になりながら思わされた。
そして、残りの画像はこちらは正解のリピート
尻手駅にあるきりたんぽ鍋の「なまはげ」だ
ここは相変わらずなんでも美味しかった。
人との会食なので糖質カットは諦めたのだけれども、久しぶりに食べる米は美味かったなあ。
美味しそうに見えないかもしれないが、昆布を載せたシメサバがなかなか乙なんだよね。
さて、そんでもって最近「妖怪高男」だなと思った事があったのだ。
「高男」とは思いっきり俺の造語なんだけれども、元々は「妖怪高女」の話だ。
高女(たかおんな)は、『百鬼夜行』にでてくる日本の妖怪だ。
高女は下半身を長く伸ばして家の2階を覗きこむ妖怪で、嫉妬深い醜い女が男に相手にされないあまり、遊女屋などの2階を覗いて歩くものとされている
言い換えれば「寂しい女の妖怪」の話だ。
そして俺が「高男」だなと思ったのが先日一見で入ってきた80歳近くの老人の事だ。
一瞬、気になる事を言っていたのだが、俺はそれを聞き流してしまった。
20時くらいだというのに、「飲み足りなくて」と入ってきたのだ。
20時で飲み足りないってどういうことだと疑問に思ったが、忙しいわけではなかったので普通に入店させた。
すると、凄いペースで日本酒を飲んでいく。
呂律も回らなくなり、大丈夫かなと心配になっていたら・・・・
やはりその老人は「妖怪高男」だったのだ。
閉店までいたのだが、椅子から立ち上がらない
スタッフがいればいるだけ立ち上がろうともしないので、仕方がなく俺は先にスタッフ達を帰した。
すると、流石に俺が相手じゃ楽しく飲めないと気づいたのか老人は帰ろうとした。
なんとなくヘミングウェイの小説「老人と海」みたいだなとか思う。
なんとか老人は立ち上がると店の扉を開けて外に出た。
しかし、ふらつく老人はそのまま転倒
そして真冬に近い気温の外でいきなり爆睡。
声をかけても反応せず、放置すれば凍死は必至
仕方がなく、俺は警察を呼んだ。
そして到着した警察も手に負えないと救急車を呼ぶ
救急隊が到着すると意識を取り戻した老人は救急車に家まで送っていってくれとか言って隊員の女性にタクシーじゃないと怒られていた。
で、成り行きを見ていると後は警察がやるのでと言ってくれ、俺は帰る事ができたんだけれども・・・
警察の話を聞いていると、このご老人、酔っぱらって警察の御厄介になる常連様らしい。
ああ、なるほどなとすべてが繋がった。
結局、他の店でもしょっちゅう警察沙汰になるため一定以上は飲ませてもらえないのだ。
そして帰される。
で仕方がなく、また他の店に行って潰れるまで飲んで警察沙汰になるの繰り返し。
そして、おそらく「妖怪高男」となってしまっており、重度の「寂しい病」を患っているのだ。
過去にも記載したが、この「寂しい病」は人間を蝕み、時には命さえも落としかねない。
「寂しい」から構って欲しくて、人に嫌われたり、嫌がられるような事を故意にして気を引き、構ってもらおうとするのだ。
そして結果より人から疎まれて、寂しさがより募り、どんどん面倒くさい人になっていく。
そしてどうすれば人に構ってもらえるかを考えるようになり、妖怪高女のように誰からも相手にされない寂しさでより困った事をすれば人に構ってもらえるという学習をしていくのだ。
だから、警察を呼ばれたり、救急車を呼ばれたりしたくて、べろんべろんになって怪我をするような飲み方をわざとやる。
今から20年以上前にこの「寂しい」病が重篤になり、毎日人がいる場所にいたいがためだけに、極限まで食費を削って栄養失調で亡くなった常連客が母の店にいた。
母の店に来なければ普通に食事は取れたし、栄養失調になるようなことはなかった。
しかしこの常連さんも「妖怪高男」となってしまっており、死よりも寂しさに恐れを抱いていたのだ。
自分の身体よりもその日誰かと一緒に時を過ごせることに重きを置いている。
結構この病気抱えている男性は多い。
わざと鼻をほじったり、わざと大きくゲップをしたり、故意に下品なことをして汚いとか声をかけて構ってもらおうとする客もいるしな。
でもそれは絶対に構ってはいけないと俺は思っているけど。
それで構ってしまうと、そうすれば構ってもらえると学習してしまい誰も得しない世界の惨事を産み出すことになるからだ。
だから「妖怪高男」が出た際は、困った事をしても構ってもらえないという学習をさせるしかないのだろうけれども、でもよりねじ曲がった方に進んでいくんだろうな。
公害を最小限で止めるにはかまってあげるしかないのかもしれないが。
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