こんにちわ。
地下鉄吉野町駅近くのカラオケスナック「ミュージックパブキャビーヌ」店長の中島です。
「急に壊れたんです」
電話の主は理不尽だと言わんばかりに声を震わせていた。
水と空気と安全はタダと言われた日本で、今朝からそれが全部有料になったと告げられたかのようだった
「昨日まではなんともなかったんです。でも今朝電源を立ち上げたら起動しないんです。」
生きる権利である生存権を奪われたと主張しているくらいに、PCが起動しないことによる権利侵害を今すぐストライキを実行し、PCが起動して使えるようになる権利を取り返そうとしているかのような勢いだった。
俺は「機械ですからね、仕方がないですよ」と言いながら、電話の相手を宥めすかし、PCの手配をすることにした。
PCは壊れる前に、いつ壊れますなんて予告はしてくれない。
いやPCに限らず予兆があるのが珍しいくらいで、機械はある日突然壊れる
それは当然の事なんだけれども、権利意識が強い方からすると昨日までなんともなかったPCが、断りもなくいきなり壊れるという事は自分の道具を突如強盗に奪われたかのような怒りを感じるのだろう。
ただ、過分な権利を手にする事は身を亡ぼすのになと徳川幕府の本田正信・正純親子の話を思い出すとともに「チーズはどこに消えた?」だなと思ったのだ。
本田正信と言えば徳川幕府の重臣で文官として有能な武将だった。
そして他界する前に息子の本田正純に自分の死後、必ず領地を加増されるだろう、3万石までは受けてもいいが、それ以上は決して受け取ってはならないと遺言した。
もし辞退しなければ必ず災いが降りかかるだろうと予言したが、結局本田正純は父のこの遺言を破り、15万石の領地を受け取ってしまい、結果として父の予言通り改易という処罰を受けることになる。
店でも同じだよな、相応の対価は受け取っても構わないが、過分な対価を受け取ることは禍をもたらせる。
権利主張をすることだけでなく、過分な権利を有してしまうことも危ないのだよなと電話の相手の話を聞いて思ったのだ。
そして、同時に2000年に日本で発売された名著「チーズはどこに消えた?」だなとも思ったのだ。
今読み返しても読むたびに示唆に富んでいると思う書籍だ。
あらすじは、2匹のネズミと2人の小人は、毎日迷路の中を走り回り、その日の食料を探し求める日々でした。
そんななか幸運にもステーションCという場所で、大量のチーズを発見します。
ネズミはあまり知恵が回らないので、毎日朝早くに家から走って、チーズに辿り着きます。
しかし知恵が回る小人は、チーズの近くに引っ越して、朝はゆっくり過ごし、昼過ぎにチーズの場所に向かうようになりました。
チーズがある場所もすでにわかっているので、あくせく動き回ることは、もう必要ないと思ったのです。
そんな日々が続いたある日、ステーションCからチーズが消えてしまいました。
ネズミのスニッフは変化を敏感に察知するタイプで、実はチーズが徐々に減っていることに気付いていて、「いつかチーズはなくなってしまう」と予測していました。
そのため、ネズミ達はチーズを見つける前の生活にすぐさま戻り、新しいチーズを探すために別の場所へ走り出していきました
しかし小人は、「自分たちはネズミじゃない。賢くて特別な小人なのだ」と思っていたので、チーズがなくなったことに納得がいきません。
「これは何かの間違いだ」「明日になればチーズは戻ってくる」「チーズを誰かが持っていったのだ」「チーズが消えた原因を調べなければならない」と叫び、明日はチーズが戻ってくると思って、ステーションCから離れようとしませんでした。
それでも、チーズが戻ってくる日はきません。
ある日、小人の1人ホーは「新しいチーズ」を探しにここから離れる決意をし、ステーションKにたどり着きます。
しかし、そこにはもうチーズはなく欠片が落ちているだけでした。
ホーはもっと早く行動していればと大きく後悔します。
その後、ホーはステーションNにたどり着きます。
そこには今までにないぐらい大量のチーズがありました。
ネズミのスニッフとスカリーは先に到着していて、チーズを堪能していました。
という話だ。
チーズを権利と置き換える事ができるなと思うと同時に、今存在している当然はある日突然、チーズのように消えてしまうかもしれないのだ。
そういきなり故障したPCと同じように、物事は常時良くも悪くも変化していて、その変化に対してアクションを求められる。
そして、俺はそのことを重々理解しているつもりだった。
だからこそ、チーズは消えるものだという認識のもとに俺の行動原理がある。
本日は麹町の会社に出社した。
そして会社の近くにいるならと思い、件のカキフライ食べ放題のオイスターバーのランチに行ってきた。
このクオリティのカキを食べ放題で提供し続けることなど、それこそ過分なサービスであり、永続的に続けられる事ではない。
場所代、原価、人件費
どれをとってもこのランチは店舗にとっては大赤字。
夜の集客のために、身を削ったサービスで、ランチ価格でこのカキフライを食べ放題という権利を得ることは過剰な権利であり、いつか損なわれることを予測させる。
そうチーズと同じで消えてしまうだろう、いつか。
だったら、消える前まではチーズを堪能したい。
なので、行けるうちに行っておこうと思っているのだ。
聞けばこの「オイスターバーオストレア」のカキフライ食べ放題ランチは赤坂見附店でしか行われていない特別なサービスなのだ。
系列店の他の店舗でもやっているのならそれほど俺も気にはしないが、この一店舗の営業を良くするための施策なのだろうから、集客の必要がなくなったり、撤退を検討したり、計画通りに進まなければ、当然サービスの取りやめになるだろう。
チーズは最初から消える雰囲気を醸し出している
ということで、4回目くらいのリピートになるが、カキフライ食べ放題ランチしてきた。
これから商談なのだが、満たされた胃袋のおかげで眠くて仕方がない。
もう、どうでもいいんじゃないか?
そんな深夜3時まで飲み続けたようなすべてを満たされたような感情にさせられた。
この世をば わが世とぞ思ふ 望月の 欠けたることも なしと思へば
と詠んでやろうかとさえ思わされる。
店舗に着くと、いつもはレアのハンバーグにチーズをかけた、それこそチーズを堪能するチーズハンバーグを頼むのだが、今日はふとステーキはどうなんだろうかと気になってしまった。
ということで、本日はサーロインステーキのライス無しを注文
そして肉が焼ける間に、噛むと中からクリーミーな牡蠣が正体を現す絶品カキフライを早食い選手のように詰め込んだ。
これが最後の晩餐と分かっている人であるかのように、カキフライを求め続けた。
思わず、喜悦に満ちた「ん~♪」という声を漏れそうなくらい美味かった。
そう、美味かったんだ。
いや、美味い、美味すぎる
埼玉の銘菓「十万石まんじゅう」のCMのようになっていた。
風は語りかけてこなかったけれども。
そして運ばれてくるレア気味のサーロインステーキ
正直、ハンバーグもカキフライも美味いが、オイスターバーだし、ステーキは普通だろうなと侮っていた。
ところが、この店のレアステーキもかなりの俺好みで美味しい
肉のカットの仕方も薄く広くではなく、厚く短くも良いし、赤身の歯応えも固すぎず柔らかすぎずでいいバランス。
何食べても、美味いなこの店
想像以上のお味にダブルで満足させられた。
ここのランチは本当にお勧めだ。
そんなわけでこれから込み入った商談なのだけれども、あまりの満足感におめでたい顔しかできていない。
昔、会社の人がクレーム処理に行って、温和なえびす顔だったため、普通に謝っているのに何笑ってんだとクレームでより怒られた理不尽な話を思い出させられる。
今の俺も普通にしていても、真面目に聞いてくれとか言われてもおかしくないくらい「おめでたい」が溢れている。
さて、そんなわけでそろそろ福々しい雰囲気出しながら、商談まとめてきますかね。
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