藤沢の至福のハンバーグ

営業マン飯2022年
ご挨拶

こんにちわ、地下鉄吉野町駅最寄りのカラオケBARキャビーヌの中島です。

 

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こんにちわ。

地下鉄吉野町駅近くのカラオケスナック「ミュージックパブキャビーヌ」店長の中島です。

カランと来客を告げる音が鳴った。

ドアの方に目を向けると、そこにはお世辞にも綺麗とは言い難い恰好をした老人のような男が立っていた。

BARのカウンターで飲んでいた俺は、店員の声を待たずしてズカズカと店の入ってくるその男に猛烈な違和感をもって眺めていた。

俺の視線に気づいたのか、あろうことにかその男は俺の隣に座った。

他にも空席は多々あるというのにだ。

ポケットからしわくちゃの千円札を2枚取り出してカウンターに置くと、男は一言「バーボン」と呟いた。

ルパン三世の次元大介ではあるまいし、バーボンだけじゃ店員さん分からないだろうと俺は思った。

とはいえ、店員は男に面識があるのか、スッと琥珀色の液体が入ったロックグラスを男の前に出した。

男は氷を一度カランと鳴らすと、クイッと半分ほど飲んだ。

大きく息を吐くと、男は声をかけてきた。

隣とはいえ、多少は距離があるのに異常なまでに酒臭い。

「なあ、兄ちゃん、世の中は嘘に塗れてる、嘘だらけだよ、そうは思わねえかい?」

唐突に世の中の真理を教えてやったと言わんばかりの口調に戸惑いながらも、俺はプロの酔っ払いとして最適な答えを模索していた。

「そうですね、そういう見え方もあるかもしれません」

肯定も否定もせず、最も無難と思われる返事をした。

男はお前もただの人かと言わんばかりの蔑んだような笑みを浮かべると続けた。

「へへ、俺はよぅ、トトって呼ばれてんだ。結構その呼び名も気に入っている。」

「兄ちゃん、俺、俺はな、一度殺されてんだよ」

いきなり何を言い出すのだろうと思い、俺は男の顔をまじまじと見つめた。

年季のはいったキャップを被り、サンタクロースと区別がつかないような白髭を生やし赤ら顔

ハロウィンの時期に町を歩いていたらクリスマスのコスプレと勘違いされても驚けない。

「何を馬鹿な事をって顔してんな」

「いいかい、兄ちゃん、人を殺すってのは何も肉体的なものだけじゃねえ。精神的にも社会的にもいろんな方法で人は人を殺せるんだよ。」

物騒な話だなと思いながら俺は黙って聞いていた。

俺の反応を確かめるように、男はグラスに口をつけると男は再び語り始めた。

「兄ちゃんに一つだけ隠された真実を教えてやるよ」

男が語った話はこうだった。

男は以前に住宅総合設備メーカーにと勤めていたらしい。

今とは違いバリバリ仕事をしていた男だったが、ある1軒のビルに自社製品を納品してから、やたらクレームの電話を受けるようになったという。

男性やトイレ掃除をしたことのある方なら分かると思うが、男性用の小用の自動洗浄のトイレにはある時から必ずシールが貼られるようになった。

そのシールには「無人の時でも洗浄のため、水が流れる事があります」と書かれている。

自動洗浄は基本的にセンサーが反応すると水が流れる仕組みだ。

逆に言えば、センサーが反応しないときは決して水が流れることはない。

にもかかわらず、何故そんなシールが貼られることになったのか?

男が言うにはだ、納品したビルの地下一階の男子トイレの右から2番目のトイレが、誰もいないのにやたら自動洗浄の水が流れ続けていたことがあるというのだ。

最初はセンサーが汚れに反応している物だと思って、メンテナンスの人を手配して掃除に行かせたりもした。

何の問題もないのに、一向に直らない。

仕方がなく、センサーを交換した。

それでも変わらず、クレームの電話は続く

掃除をしても、部品を変えてもどうにもならず、一向に改善されないことに業を煮やしたビルの管理人から男の上司にクレームが入り、板挟みとなった男はどんどん追い詰められていった

男は誰かが悪戯しているのではないかと疑い、監視カメラをこっそりと取り付けた。

3日くらいして録画した映像を男が見ると、確かに誰も写っていないのにも関わらず、人が入れ替わり、立ち代わり使用したかのように何度も何度も自動洗浄されていた。

しかもその地下1階の同じところだけだ。

男は気味が悪くなり、上司に相談した。

録画した映像を上司に見せると、上司の顔は歪んでいった。

「俺が何とかするから、この件は口外無用だぞ」と上司は言ったそうだ。

そして、ある日見るからに宗教的な格好をした人物と上司がそのビルに同行して以来、ぴたりとクレームの電話はなくなった。

それからだというのだ、新品の自動洗浄の男性用の小トイレに「無人の時でも洗浄のため、水が流れる事があります」というシールが必ず貼られるようになったのは。

男は納得がいかず、あれはなんだったんだと、無人でセンサーが反応する事なんてないですよね、と上司にしつこく迫った結果、そのメーカーのリストラ専用の子会社に出向の辞令が下りたとのことだ。

男のサラリーマン生命はそこで絶たれた。

だから、1度殺されたのだと言う。

「なあ、兄ちゃん、兄ちゃんは勝手にトイレの水が流れているのを見たことはあるかい?」

言われてみれば、俺は見たことがない。

「表向きはよ、水道が勝手に流れていて無駄だというクレームを防ぐためって言われてるがよ、本当はよ、センサーが何もないところで反応することなんてねえんだよ。」

男は残った酒を飲み干すと、言葉の意味を考えさせられていた俺を置いて、ふらついた足取りで店を出て行った。

夏だという事もある。

本日は藤沢の湘南TーSITEで仕事だった。

ふと、小用を足そうとしたら「無人の時でも洗浄のため、水が流れる事があります」というシールが目についた。

そこからつい妄想をしてしまったが、思いっきり俺のフィクションだ。

藤沢に納品の立ち合いに来たのだが、歯科医院の締め作業までいてくれと言われてしまい、短い昼休みの間に良いランチを摂る必要があった。

検索すると、ふるさと納税の返礼品にもなっているという「至福のハンバーグ」とやらが美味そう。

藤沢で仕事をすることもそうはないので、これは食べなきゃならないと同僚と渋滞の中、車を走らせた。

土曜の藤沢ってなんでこんなに混んでいるのだろうか。

歯科医院の昼休みは1時間しかない。

が、美味い物を食べることを諦めてはならない。

今日を最善に。

そう思い、行ったのは藤沢駅南口にあるSPICAという店舗

ここに至福のハンバーグがあるらしい。

外観、内装共におしゃれな感じで女性客がやたら多い。

同僚と俺は至福のハンバーグを注文

卵スープが普通の卵スープと違いアクセントが効いていて美味かった。

そしてハンバーグは黒毛和牛とダイヤモンドポークの合いびきハンバーグらしい。

ポークとビーフが混ざると甘くなるんだろうか。

ハンバーグが甘いなと感じた。

無論、美味しかったのだが、今日も一つ学びがあった。

俺は100%ビーフのハンバーグが好きなんだなと。

再度己を知れたのも良かったと言えるんじゃないだろうか。

それにしても早朝だった分眠くなってくる。

明日は完全に休みだし、何を食してやろうかな。

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